老人ホームの暮らし 2024/8/29
老人ホームのアクティビティはどんなもの?具体的な内容や、その効果と役割とは。
2024/8/29
近年、地震や大雨による水害など日本各地で大規模な災害の発生がみられるようになりました。自宅でも災害発生時の避難行動や連絡方法を決めたり、持ち出しリュックや食料の備蓄をしたりと備えられている方も多いと思います。介護事業者も利用者と職員安全確保、そして災害発生後も日常生活を継続していけるようにとさまざまな対策が考えられています。
介護サービスは、要介護者、家族などの生活を支える上で欠かせないものです。少しでも安心して入居できるよう、今回は介護事業者の防災についてご紹介します。
2024年、介護事業者のBCP策定が義務化されました。BCPとは、Business Continuity Plan略称で「事業継続計画」と訳されます。新型コロナウイルス感染症が流行した2020年、厚生労働省より自然災害発生時の業務継続ガイドライン「事業継続計画」(BCP)が出されました。このガイドラインでは、自然災害をはじめ感染症やテロや大事故、サプライチェーンの途絶など突発的な不測の事態が発生しても、事業を中断させない、万が一中断しても出来る限り早期復旧するための方針や手順を示す計画書を作成するよう書かれています。入居者と職員の安全確保、サービスの継続はもちろん、地域との連携なども重要です。
緊急時に慌てず安全が確保できるよう、BCPにおいては下記のような取り組みが重要とされています。
・各担当者をあらかじめ決めておくこと(誰が、いつ、何をするか)
・連絡先をあらかじめ整理しておくこと
・必要な物資をあらかじめ整理、準備しておくこと
・上記を組織で共有すること
・定期的に見直し、必要に応じて研修・訓練を行うこと
などが挙げられています。
具体的には、平常時と発生直後、二次災害に備えた個人の行動基準を決めておきます。日常の点検から、災害発生時の担当フロアの安全確保と避難誘導、支援を要する人の把握や避難行動、状況の共有と伝達とフローなど実際に想定して決めていきます。現場以外でも、全体を把握する管理チームや緊急対応を行うための情報班や安全指導班、応急救護班などを設置し、対応メンバーとその拠点なども検討します。
入居者と職員の安否確認方法の決定や、医療機関へ速やかに搬送できる方法、手順を決めておく、災害ごとの避難行動とそのルート検討など、さまざまな想定をもとにBCPが策定されます。
その他、通常業務の中でも優先すべき業務の明確化、建物や設備の確認と復旧対応、災害後の職員の業務管理などその内容は多岐にわたります。施設で規模や環境により違うのでそれぞれの事業継続計画の策定が義務付けられています。
非常時の担当業務に関する点検を通常業務で取り入れたり、避難訓練を実施し見直したりと運用することが大切です。実際に、避難訓練で情報を館内アナウンスしたところ、ある場所では聞きづらい場所がありインカムを併用した方がいいなどの改善点が見つかったり、施錠・開錠にする気づきがあったりすることもあります。日ごろから訓練と改善を積み重ねていくことが大切だとされています。
備蓄や防災などは、ガイドラインには下記のようなことが挙げられています。
・建築年を確認し、新耐震基準が制定された1981(昭和56)年以前の建物は耐震補強をする
・不安定に物品を積み上げず、日ごろから整理整頓を行い、転落を防ぐ
・発電機や蓄電池の備蓄居室・共有スペース・事務所など、職員、入所者・利用者が利用するスペースでは、設備・什器類に転倒・転落・破損を防止する
・電気なしでも使える代替品(乾電池や手動で稼働するもの)の準備や業務の方策を決める
・自動車のバッテリーや電気自動車の電源を活用する
・自家発電や蓄電池を設置する
・カセットコンロは火力が弱く、大量の調理は難しいため、それらを考慮して備蓄を整備することが必要
・プロパンガス、五徳コンロなどでの代替も考える
【稼働させるべき設備】暖房機器、調理器具、給湯設備
【代替策】暖房機器→湯たんぽ、毛布、使い捨てカイロ、灯油ストーブ/調理器具→カセットコンロ、ホットプレート/給湯設備→入浴は中止して清拭
・飲料水の備蓄(1人1日3ℓ、3日分以上)
・生活用水の多くは「トイレ」「食事」「入浴」で利用され、対策は「水を使わない代替手段の準備」が基本。「トイレ」であれば簡易トイレやオムツの使用、「食事」であれば紙皿・紙コップの使用などの手段をとる
・携帯電話やスマートフォンなど、通信機器のバッテリーの確保
・被災時は固定電話や携帯電話が使用できなくなる可能性もあるため、衛星電話、無線、災害時有線電話など複数の連絡手段で関係機関と連絡が取れるように準備しておく
・三角連絡法を検討する
・PC、サーバ、重要書類などは、浸水のおそれのない場所に保管(上階への保管、分散保管など)
・いざという時に持ち出す重要書類を決めておく
・簡易トイレの設置
・排泄物や使用済みオムツなどの処理方法、一時保管場所を決める
・消臭固形剤を使用する
・水:1人1日3リットル、3日で9リットル
・食料:1人1日3食、3日で9食
毛布:1人1枚
・防護具など(マスク、体温計、ゴム手袋(使い捨て)、フェイスシールド、ゴーグル、使い捨て袖付きエプロン、ガウン、キャップなど)についても在庫量・必要量の管理を行い、数日分の備蓄を行う
上記にあげてきたものは、ガイドラインに沿った一例です。老人ホームではガイドラインに沿ったBCPの策定が義務付けられているので、施設ごとの規模感や立地、さまざまな条件の中で策定されます。定期的な点検と訓練などを含め、建物の耐震性や避難計画の整備も日ごろから気を付けられています。
実際に、蓄電池や自家発電システムを導入しているところもあり「災害時の蓄電は避難時のエレベーター使用を最優先に使用する」と策定しているところもあります。この内容は入居者の状況などを見て、避難訓練を行い、実際に何に使うべきかなどを思慮した介護施設ならではの優先順位です。身体能力に応じた避難誘導、屋外誘導時には寒暖差に気を付けるなど、高齢者の状況や特性を理解した適切な避難指示や救助活動を行う訓練が行われます。
さらに、老人ホームでの食事の備蓄は、軟菜食やミキサー食、お粥などの食形態を準備している施設もあります。災害時においても高齢者の健康管理は重要です。普段行っている定期的な健康チェックや、薬の管理などが引き続き行われるのも安心です。介護施設では、高齢者の方が安全になるべく安心して過ごすための対策が、考えられています。
トラストガーデンでもBCPの策定はもちろん、1年ごとにBCP訓練と防災(消防)訓練・感染症の予防およびまん延防止訓練の計画の見直しと訓練の実施、災害用備蓄の標準仕様と使用手順、衛生管理の方法を全施設で共有しています。Facebookなどでも発信していますが、各施設で防災訓練が行われ、改善点の見直しやフィードバックも実施しています。備蓄食料についても、食形態への配慮はもちろん、栄養にも配慮した3日間の献立が考えられています。
BCPの策定が義務付けられていますが、作っただけで運用されていなかったり、共有や訓練がなされていなかったりと、その精度や運用は、運営会社や施設によってさまざまです。
介護施設は社会インフラとして、入居している方だけでなくその家族の生活も支えている存在です。しっかりとした備えがある前提ですので、入居時には避難訓練の実施や災害時の対応などについて確認してみるのもよいかもしれません。
(参考)介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン.厚生労働省 老健局.令和6年3月,https://www.mhlw.go.jp/content/000749543.pdf (参照 2024-09-25)