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シニアライフ

歯を磨くだけじゃない!シニアのための「口腔ケア」の本質を知ろう。

口のはたらきは、人生にとってとても大切な役割を果たしています。当たり前のようですが、会話や食事、栄養摂取など、日常生活そのものなのです。しかし高齢になると、歯が抜ける、唾液が少なくなるなどトラブルが起こりやすく、それらが食欲やコミュニケーション意欲の低下につながることもあり、「オーラルフレイル(口の衰え)」は、要介護へのはじまりとも言われています。
会話や食事など、人生の質(QOL= Quality of life)にも直結する「口のはたらき」。この機能を維持するために重要な高齢者の口腔ケアについて、言語聴覚士と認定歯科衛生士(老年歯科)に話を聞きました。

1.食事を楽しみ、栄養摂取にも欠かせない口のはたらき

私たちは何気なくおしゃべりをしていますが、話すメカニズムは複雑です。肺から吐き出された空気が声帯を振動させて声になり、発語器官(唇、舌、軟口蓋、あごなど)を動かすことで、声を音に変え、その音を組み合わせることで言葉にします。声を言葉に変換するためには、口の機能は欠かせず、口がしっかり動かせないと言葉がはっきりしない、呂律が回らないなどの問題が起こります。口を滑らかに動かすために、潤滑油として唾液はとても重要な働きをします。
そして、口のはたらきは、食事を楽しむだけでなく、栄養摂取にも欠かせません。
「食べる」行為は、まず目で見て食べ物を認知し、口へ運び、口を開け、歯で咀嚼し、舌を使いのどへ送り込み飲み込み、食道から胃へと食べ物を運びます。歯がしっかり使える状態でないと咀嚼ができず、唾液の分泌も弱くなり、消化や飲み込みに影響がでます。また、舌も柔らかいもののすりつぶしや、食べ物を口内で移動させるのに使います。口腔ケアを怠ると、食べ物の残りかすにより菌が繁殖し、炎症を起こしたり、誤嚥性肺炎につながったりします。歯茎に炎症などがあり痛みがある場合は、痛みから「食べたくない」という気持ちが生まれることもあります。食べなくなると口や舌など筋力も落ちてしまい、より食べられなくなってしまいます。

2.高齢者特有の口内環境を知ろう

歯磨きをはじめとした口腔ケアは、どの年代の人にとっても重要です。歯のない乳幼児はミルクを飲んだ後の舌上を口腔用のウェットタイプのティッシュなどで拭き、幼児から大人にかけては歯を磨き、定期検診を受けるなど虫歯にならないように多くの人が注意を払います。高齢になると入れ歯やインプラント、歯肉が下がるなど、個人差が大きくなり、課題も多様です。
平成元年、80歳で20本の歯を残すことを目指す8020運動が謳われはじめましたが、近年は残すだけでなく、ケアについても注目されるようになりました。まずは、高齢者特有の口内環境を知ることが適切なケアにつながります。

高齢者特有の口内環境1:乾燥しやすい

加齢による唾液腺の委縮や、噛む力の低下などが原因で起こります。唾液の分泌量が減少し、質も変化するので、自浄作用が低下して口の中が汚れやすくなったり、乾くことで飲み込みにくくなったりします。
人工唾液などもありますが、自然の唾液には若返りホルモンと言われる「パロチン」が含まれるため、まずはマッサージなどで唾液の分泌を促進するのがおすすめです。日頃から、口をよく動かす(話す)ようにして、水分摂取やうがいを適切に行いましょう。
唾液を補うために、口の保湿剤(液状、ジェル、スプレー)もお勧めです。

高齢者特有の口内環境2:入れ歯、インプラント、ブリッジなどの使用

入れ歯やインプラント、ブリッジなどを使用している場合、汚れが溜まりやすく、歯肉の周囲に炎症が起こるなどのリスクもあります。高齢者歯科に特化した歯科医師による、定期的な検診とメンテナンスが大切です。
そして、歯肉が下がってしまうことの多くの原因は、歯周病。歯科での専門的なケアに加えて、自宅で、義歯などの正しい清潔保持・管理も大切です。

高齢者特有の口内環境3:歯肉が退縮する(歯ぐきが下がる)

歯肉の退縮により歯の根が露出し、露出部分に汚れが溜まったり、入れ歯が当たったりして炎症を起こすなどさまざまな問題がでてきます。
歯肉退縮は、生活習慣の影響などさまざまな原因があります。歯の磨きすぎ、歯周病、加齢、喫煙など。予防するには、歯科医師、歯科衛生士による正しい歯磨きや歯肉マッサージの指導などを受けることが大切です。
必要以上に強い力で歯磨きをしてしまうと、歯肉に負担がかかり、歯肉の退縮を進めてしまうので注意しましょう。

高齢者特有の口内環境4:舌、上あごにも要注意

「歯は包丁、舌はまな板」という表現があります。歯だけでなく、舌もケアをしないと汚れが溜まってしまいます。
また、舌の機能が落ちてくると、上あごを触る機会が減るため、上あごの汚れにも注意が必要です。ブクブクうがいをしっかり行い、舌の汚れが気になる場合は、舌ブラシ、スポンジブラシ、口腔用のウェットタイプのティッシュなどを活用し、上あごに汚れが溜まっている場合は、スポンジブラシや口腔用のウェットタイプのティッシュなどでのお手入れがおすすめです。

3.口腔ケアグッズ選びで大切なこと

「合うものを心地よく、正しく使い続けられているか」がポイントです。適切な歯ブラシなどを使って口腔衛生を保ちましょう。あれもこれもと揃えても、正しく使えず、継続できなければ意味がありません。なるべくシンプルに、今のご自分の口に合ったものを選ぶのがポイントです。
また、口内の様子に注意を払い「ちょっと汚れが溜まっているかな」「臭いがするな」など、気になる点があれば、自己判断せず、歯科受診をするのがよいでしょう。その際には高齢者歯科に特化した歯科医院をお勧めします。

4.老人ホームでの取り組み

口腔ケアにも力をいれている老人ホームでは、食事毎の体操や歯磨き、口腔チェックなどその人に合うサポートを行っています。ここでは、トラストガーデンでの取り組みをご紹介します。

認定歯科衛生士(老年歯科)による専門的なケア指導

現在トラストガーデンでは、歯科衛生士業務に40年以上従事し、老年歯科にも精通している本社機能訓練チームの歯科衛生士が定期的に施設を訪問し、訪問歯科や言語聴覚士、施設の介護スタッフと連携して施設全体で口腔ケアに取り組んでいます。ご入居者の食事や歯磨きの様子を観察し、居室の洗面周りのチェックや口腔体操の指導を行い、施設スタッフと情報共有も行っています。

観察することを大切にしています

歯科衛生士、言語聴覚士、介護スタッフも皆、まずは観察することを大切にし、適切なケアを行えるように最善を尽くしています。
食事中のご入居者一人ひとりの様子を観察します。食後の口腔ケアでは、まず口をゆすぎ、ブクブクうがいをしていただきながら口腔機能を確認し、必要な場合は、食後に汚れが溜まりやすい箇所や、歯磨きの様子、磨いた後のチェックなども行っています。

食事前にオリジナルの口腔体操を行っています

食べるための準備体操として毎食前に、認定歯科衛生士(老年歯科)が考案したオリジナル口腔体操を実施しています。誰もが知るラジオ体操のように、飽きずに続けられる、誰もが取り組みやすい内容の体操です。複数のパターンがあり、口だけではなく指先など、食べるために必要な体のさまざまな部分を動かします。

5.まとめ

口は健康の入り口。人生100年時代、口腔ケアは人生の質(QOL= Quality of life)に関わります。
口腔ケアといってもその対応は千差万別なので、ただの「歯磨き」と考えず、ケアについて家族と話し、グッズの選択、高齢者歯科に特化した歯科医師の受診なども検討してみてください。
本人はもちろん、周囲の方々の理解あってこそ良好な口腔環境を保つことができます。それがフレイルの予防にもつながり、笑顔がつづく毎日を過ごせるカギになるかもしれません。

記事監修

株式会社ハイメディック 機能訓練サービス担当

■言語聴覚士
■認定歯科衛生士(老年歯科)

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